「工場のポンプを事務所から操作したい」「ビニールハウスの換気扇をスマホでON/OFFしたい」 電気工事や設備管理の現場では、このような「遠隔操作」のニーズが年々高まっています。しかし、ただスマートリレーを導入するだけでは、安全性や法律(特に電気用品安全法)の観点から、プロの仕事として採用するには不安が残るのが現実です。
この記事では、多くの現場で定番となっているオムロン社の汎用リレー「MY2」を、スマートフォンから安全かつ確実に遠隔操作し、さらにON/OFFの状態までリアルタイムで確認できるという、画期的なシステムについて、その仕組みを徹底的に解説します。
解決策は3つの機器の巧みな組み合わせ
1.シンプルワンショット(スマホからの指令を受ける頭脳)
2.瞬時保持リレーユニット(信号を変換する心臓部)
3.オムロン MY2リレー(実際に100Vなどを制御する筋肉)
① スマホからの指令を受け取る頭脳「シンプルワンショット」
まず、スマホアプリからの操作信号を受け取るのが「シンプルワンショット」です。この機器の最大の特徴は、スマホのボタンをどれだけ長く押しても、出力される信号は0.5秒間だけの「無電圧瞬時A接点」であるという点です。

LOSクラウド(Linked Online Service)を介すことでVPNやポート転送を使わず、遠隔地から専用アプリによって、無電圧瞬時A接点を操作したい機器に送信。
これによって、電気錠や業務用エアコン、自動ドアなど無電圧瞬時A接点で動作する電気機器をON/OFFまたは開閉させます。
実は瞬時接点だけでなく、技術的には※常時接点(連続接点)も可能でした。
しかしそれをすると、100Vの開閉器として扱われるようになりPSEの対象製品とした扱われる誤解を招く恐れがあったからです。
※常時接点(連続接点)について
・「押している間リレーを閉じる」
・「押す度に開/閉を交互に切り替わる」
技術的にはどちらも可能です。あえてこの機能は設けていません。
こういった経緯から常時接点(連続接点)を実現するために、後述の瞬時保持リレーユニットをかませて最終的にオムロンのMY2を開閉。
② 信号を変換する心臓部「瞬時保持リレーユニット」
「シンプルワンショット」のリレー接点は、前述にあった「無電圧瞬時A接点」。これは瞬間的な短絡なのでオムロンのMY2の回路を連続して閉じることができません。
そこで登場するのが、この「瞬時保持リレーユニット」です。

この瞬時保持リレーユニットは、無電圧瞬時A接点(パルス信号)を受けるたびに、12Vの出力を「ON」→「OFF」→「ON」と交互に切り替え(トグル動作)を行います。
これにより、シンプルワンショットを使って、次に紹介するオムロンのMY2のリレーを連続して「短絡」<->「開放」することを可能にしているのです。
③ 実際の制御を担う筋肉「オムロン MY2リレー」
そして、最後に登場するのが、皆さんお馴染みの「オムロン MY2リレー」です。瞬時保持リレーユニットから出力される12Vの保持信号をコイルで受け、照明やポンプが接続された100Vなどの動力回路を開閉します。

あまり知られていませんが、オムロンMY2の「2」は『回路を2つ持っていますよ』という意味です。
当社はその特性をうまく利用しています。
1つ目の回路は、負荷を制御する回路。そして2つ目の回路は、SIMPLE ONESHOTへのフィードバック用です。この2つ目の回路をSIMPLE ONESHOTの接点感知に接続することで、1つ目の回路の開閉状態をSIMPLE ONESHOTに伝達。
機器分離によるメリット
- PSE対象製品なのでは?と誤解を受けることがない
- MY2以外にLY2などリレーの選択肢の幅を持たせられる
- シンプルワンショットが故障しても、負荷には影響がない。
【本題】接続方法と「状態確認」まで実現する驚きの仕組み
このシステムの真骨頂は、ただ遠隔操作できるだけでなく、「今、本当にリレーが閉なのか開なのか」をスマホのアイコンでリアルタイムに確認できる点にあります。これを実現しているのが、MY2リレーの特性を活かした巧みな配線です。
MY2リレーは、前述のとおり、2つの独立した回路(2c接点)を持っています。
- 回路1:本来の目的である、ポンプや照明などの負荷(100Vなど)を制御するために使用。
- 回路2:1つ目の回路と全く同じタイミングで開閉する特性を利用し、こちらの接点を「シンプルワンショット」の状態確認用の入力端子に接続。
下の写真は北海道のロードヒーティング(アスファルトの雪を溶かす装置)の制御に利用されています。制御盤の右上にシンプルワンショット、その下に瞬時保持リレーユニット、その左にオムロンMY2があるのが見えます。

これにより、以下のルーティンが成立します
スマホ操作した時のルーティン
- スマホでONをタップ
- SIMPLE ONESHOTのリレー端子が0.5秒間短絡
- 瞬時保持リレーユニットが12Vの保持信号に変換
- MY2リレーがONになる
- ポンプが稼働して同時に回路2も閉じる
- 利用者は回路が閉じたと視覚的に分かる
遠隔地の機器が、利用者の指示通りに確実に動作しているかを目視で確認できる。
このフィードバック機能こそが、プロの現場で求められる「安心感」と「確実性」を提供するのです。
まとめ
今回解説したシステムを導入するメリットをまとめます。
- 安全性の確保: 電気用品安全法を遵守した設計で、安心して導入できる。
- 確実な状態確認: 遠隔地の機器のON/OFF状態をスマホでリアルタイムに確認でき、操作ミスや不安を解消。
- 高い汎用性と信頼性: 定番のオムロンMY2リレーを活用するため、様々な現場に応用でき、信頼性も高い。
- 柔軟なシステム構築: 既存の制御盤や設備にも組み込みやすい
動画で実際の動きをチェック!
この記事で解説したシステムの実際の動きや、より詳細な配線方法は、以下の動画で非常に分かりやすく解説されています。ぜひご覧ください。

